善波社長ブログ「Amazon Bar」

アマゾン・バー

今から2年前、知り合いの同業の方から「Amazon Bar」に誘われました。
「是非!」と返事はしたものの、
どんなものかピンとこなかったので調べてみると、
ネット通販最大手アマゾンが、
品川のキャナルエリアと呼ばれる運河沿いのスペースに、
一週間の期間限定でオープンするバーとのこと。

入場料は2500円全てネット決済による予約制で、
会場内には720種類の酒36種類のおつまみを用意して、
自分の好みのお酒を発見する場の提供をテーマとしているそうです。
要するに大手問屋の試飲会を、一般向けにつまみ付きで
有料にしたものと思えば良いのかと、そんなイメージで足を運んでみました。
入場時にスタッフから説明があり、まず入場者は
自分がお酒選びの際に重視する価値観を
「冒険」「人気」「革新」「伝統」
の4つから1つに絞らなくてはなりません。

そして会場に入るとワイン、ウイスキー、日本酒等、お酒
の種類ごとに分かれたコーナーで、自分が選んだ価値観の列に並びます。
試飲希望の銘柄を3つ指定すると、小さなプラカップに注いでくれ、
同じ大きさのカップに入ったおつまみと一緒に渡されます。
ただし列に並べるのは3回までなので、会場内に720種類のお酒がある
といっても、選択肢が4分の1に絞られた上、実際にテイスティングできるのは
3種類×3回の、たった9種類
ということになります。
選んだ飲み物と一緒に渡されるのは、ウイスキーならビーフジャーキーの小片、
赤ワインではポッキー5~6本といった具合で、
試飲と同様3回だけしか配られないこの乾き物を、
「36種類のおつまみ」
と言ってしまえる神経が羨ましいと、妙な感心はしたものの、
謳い文句を真に受けた酒飲み(私です)なら、
この内容では納得できないでしょう。

ドリンク提供スタッフは、全員アマゾンのTシャツを着たアルバイトとおぼしき若者で、
スピリッツやリキュールのコーナーでカクテルなど望むべくもなく、
ただ慣れない手つきでカップの底から1センチ(!)ほど原酒を注ぐだけです
(ウイスキーコーナーには水や炭酸がありましたが)。
私は入場時に「革新」という価値観を選んだのですが、
銘柄のラインナップはとても革新的には見えず、
その分類の仕方もまた、素人のやっつけ仕事のようです。

ワインコーナーのテイスティングも蒸留酒コーナーと同じプラカップですし、
とにかく首を傾げる点を全て挙げてゆけば、
それだけで数ページ埋まってしまいそうな程、
このイベントは私が抱いていた酒販業界の常識(良識?)からかけ離れたものと感じました。

Amazon Barを出て、同行者と口直しに居酒屋に寄った帰りの車中、
酔った頭で今日の体験を反芻している時、私がその運営の杜撰さに呆れ、
餅は餅屋だと得心していたならば話はそれで済むのですが、
自分でも意外なことに、この夜私に最も強い印象を残していたのは、
来場者の楽しそうな表情だったのです。

会場に入ってすぐの、試飲スペースに続く丸く仕切られた部屋の壁一面には、
取り扱っているあらゆる種類のお酒がぎっしりと
来場者を囲むようにディスプレイされていて、
多くの来場者が笑顔で記念撮影をしていました。
この何の規則性もなく並べた商品で埋まった、
私には適当な仕事にしか見えなかったその壁から、
一般の来場者は、どんなお酒でもここなら手に入るという啓示を受け取っていたのかもしれません。

スーツ、ネクタイは入場不可という逆ドレスコードの気楽な雰囲気の会場内で、
雀の涙程度の酒と、鳥の餌のような乾き物を手に、
仲間と語り合い、または会場で出会った新たな友人達と交流して
満足げな男女の顔を思い返していると、さっきまでの私のAmazon Barへの不平が、
全くの的外れに感じられました。

あの「Bar」は、アマゾン愛好者のコミュニケーションと、
アマゾンなら何でも手に入るという信仰を深める為の場であり、
その目的は大変効率的に達せられていました。

参加者の多くにとって、酒は嗜好品ではなく、
アマゾンが提供する体験の一つであり、
ツイッターやラインの延長上にあるコミュニケーションツールなのではないのか。
何年も同じラインスタンプを使い続ける人が稀な様に、
彼らは今日気に入った酒に出会っても、
明日はまた新しい酒を探しているのでしょう。
ならば膨大な選択肢こそ彼らの第一のニーズであり、
それが満たされている限り、私があげつらった問題点には
目を瞑ったとしても不思議ではないのです。

こうした新たな勢力が酒販業界に参入した時に、
彼らが消費者の動向を冷徹に観察して行うプロモーションが、
今回の私のような、既存の業界人の意地悪な観察に堪えられなかったとしても、
6日間で2万人を集め、参加希望者の抽選まで行われたイベントの盛況を前にして、
どちらが何を反省すべきなのでしょう。

世論や多数決が常に正しくはないとしても、
私達の意思決定の背景にある、得意先や仕入先との関係、
家業への使命感、取り扱い銘柄への思い入れ、
酒文化の担い手としての責任等々、私達がこの生業を続ける理由
そのものであることも多い幾多の要因を、
彼らはおそらく眼中に置いていないでしょう。
そして、私達には見えていなかった、今や世の多数派かもしれない
新たな顧客層を攫ってゆくのを目の当たりにして、
私達が信じる正しさは、既存の酒販業界というコップの中の嵐から外に出た時に
どのように見えるのだろうかと、それは時代が移っても普遍的な意義を持っているのだろうかと、
考えさせられる体験でした。

と、ここまでは二年前に、業界誌に寄稿した文章に一部手を加えたものです。
その後、コロナの影響もあって、私共もアマゾン含め
ECサイトでの販売を細々と始めてみたのですが、
いやー、利益出ませんね、アマゾンは。
正直、人のふんどしで相撲を取って手数料をせしめるビジネスモデルを
全世界的に展開した先駆者
としては、素晴らしい先見性に脱帽せざるをえないけれど、
ベゾスさんも個人的な宇宙旅行に何十億も使うのでしたら、
もう少しサイトを出品者に優しいシステムに作り変える事を考えては如何でしょう・・・。

大きなお世話かもしれませんが、Amazon bar に危機感を感じてから早二年、
既にアマゾンに何となく衰退の気配を感じている私です。
やっぱり商売は人と人の繫がりが、その基盤になっているべきだと、
特にこの1年半は痛感したことも要因かもしれません。

ここまでお読みいただいた皆さん、是非㈱善波のECサイトも覗いてみてください。
アマゾンには出品していないサンマリノ共和国産の高品質ワインや、
ガレッジセールのお得なお酒も日々更新中です。

近いうちにリニューアルしたサイトもリリースされる予定ですので、
これまで以上の品ぞろえで、皆様の家飲みを豊かにするご提案ができるかなと思っております。


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代表/善波栄治

1953年に、初代・善波秀吉が麻布十番にて創業。以来、本社を東麻布に移し、東京23区を中心に飲食店様への配送やお酒の小売りを行っている。

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