ただ酔うためのお酒じゃない!泡盛本まで出版した私が泡盛にハマった「はじまりの一杯」
ライター/久高葵
みなさま、はじめまして。 「泡盛じょーぐーライター」を名乗っています、クダカと申します。(ジョーグーとは、沖縄方言で「〜大好き」との意味です。) 泡盛が好きすぎて、2018年夏に、書籍『泡盛マイスターの編集長と酒好きにすすめたい泡盛の香り』まで出版した私。しかし、最初からこんなに泡盛好きだったわけではありません。 今回は、自己紹介の代わりに、私が泡盛と本格的に出会った「はじまりの一杯」をご紹介したいと思います。
沖縄の地酒、泡盛
皆さんは「泡盛」というお酒を知っていますか?
「沖縄のお酒」「度数が高くてキツいお酒」「沖縄旅行で飲んでみたら酔っ払った」など、泡盛に対して、ちょっと否定的な意見を持っている方も多いのではないでしょうか。
泡盛は焼酎の一種で、米(主にタイ米)を原料に、黒麹菌を使って醸したお酒です。
そのほとんどが沖縄県内にある47の酒造所で作られているので、他県ではあまりメジャーでないかもしれません。
沖縄では、家で飲むお酒といえば泡盛。居酒屋でも泡盛。結婚式でも泡盛。生活に欠かせないお酒です。
泡盛の度数は20度から44度までと幅広く、3年以上熟成させた「古酒」と、3年未満の「一般酒」に分けることができます。
同じ日本のお酒でも、日本酒は、新鮮な方が良いとされます。まして、一度開けてしまったお酒は1週間でも置こうものなら新鮮さが失われ、料理酒として使うしかなくなります。
しかし、泡盛は、一度開けてしまったものでも、数年保存した状態の方がおいしくなり、価値が上がるお酒です。
甕やビンに入れて泡盛を熟成させることを「寝かせる」と表現しますが、泡盛は、寝かせれば寝かせるほど香りも甘く芳醇になり、口に含んだときの舌触りもまろやかになります。
寝かせると古酒になる点は、泡盛の魅力のひとつだと思います。
Uターン帰郷の沖縄で出会った泡盛
泡盛と私の本格的な出会いは、20代半ば頃。
青春時代を関西で過ごし、沖縄にUターン帰郷を果たした当時、私は週一くらいの頻度で友人と沖縄料理居酒屋に通っていました。
那覇市の中心街である国際通りから1本裏道にある小洒落た居酒屋で、創作沖縄料理と多様な泡盛を楽しめます。
当時の私にとって足繁くお店に通う一番の理由は、泡盛がたくさんあることではなく、話し上手な店長と愛嬌たっぷりのスタッフたち。彼らと話すことが何よりも楽しみでした。
そろそろ「常連」と呼ばれそうなほど通い詰めたある日、店長から勧められた一杯の泡盛。
それまでも、残波や菊之露、久米仙、多良川などの銘酒たちを飲んだことがあったし、一杯何千円もするような美味しい古酒をご馳走になったこともありました。
しかし、その時飲んだ泡盛はどちらでもありません。
一杯千円ほどの古酒をひと口飲んだ時、これまで自ら選んでいた泡盛とは違うことに気づいたのです。
「まずはロックで飲んでみて」
店長から渡されたグラスには大きめの氷が浮かび、半分ほど泡盛が注がれています。
ゴクッと少し口に含むと、口内にパアッと華やかな香りが立ちました。
あれ、泡盛ってこんなに華やかな味わいのお酒だっけ?
「な、美味しいだろ。今度はこっちを香ってみて」
え?空になったおちょこを香るの?
次の瞬間、二度目の衝撃。空のおちょこから甘い砂糖菓子のような香りがしたのです。
店長から渡された空のおちょこは、少し前に泡盛の古酒を飲み終えたもの。
後から知ったことですが、泡盛古酒の中にはバニラやメープルシロップのような甘い香りがするものがあり、飲み終わった後も容器に香りが残ります。
その日、私は、泡盛の個性的な香りや味わい、その奥深さに、一瞬でハートを鷲掴みにされてしまったのでした。
クダカの「はじまりの一杯」
石川酒造場の『玉友 甕仕込5年古酒30度』。
私と泡盛がこんなに近付くきっかけになった「はじまりの一杯」です。
石川酒造場の泡盛造りの特徴は、ステンレスではなく昔ながらの甕を使って仕込むことです。
とはいえ、急に言われても「甕って何?」と思いますよね。私も、実際に酒造所へ見学に行くまでピンときませんでした。
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上の画像は、実際の石川酒造場の泡盛工場の様子です。
ご覧の通り、時代劇でしか見たことがないような大きな土の器が並んでいます。これらが甕。昔は味噌や醤油を作る際にも使ったようですが、沖縄の泡盛造りにも使われていました。
泡盛の製造工程は、簡単に説明すると次のようになります。
1)洗米
2)浸漬(米を水に浸すこと)
3)蒸し
4)黒麹菌の種付け(米麹づくり)
5)もろみ(水と酵母を加えアルコール発酵)
6)蒸留
7)熟成(割り水して度数調整)
8)容器詰め(銘柄によってはさらに割水をして度数調整し、詰める)
その中でも、特に4と5の工程をまとめて「仕込み」と呼びますが、微生物を扱うのでとても繊細な工程です。
最近では、泡盛の仕込みはもちろん、貯蔵さえステンレスタンクを使う酒造所がほとんどです。そんななか、石川酒造場は、県内で唯一昔ながらの甕を使い、職人の技術と手間隙をかけて仕込みを行っています。
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こちらが甕を使った仕込み作業の様子。甕で仕込みを行うことは、ステンレスの容器の何倍も気を遣うそうです。
まず、甕が割れないか、心配しなくてはいけません。せっかく仕込んだ泡盛を無駄にしないためにも、常に丁寧に扱う必要があります。
次に、作業効率が悪いという点もあります。ステンレスの容器ならホースを通せるよう底に穴を開けるなどの加工を加えることもできますが、甕はできません。そのため、次の作業に移す時、手作業で行う必要があり、効率が悪いです。
さらに、甕はステンレス容器より香りが移りやすい傾向もあるようです。そのため、仕込みに使用するごとにしっかり洗浄を行います。
このように、通常の何倍も手間をかけて泡盛造りを行っています。
石川酒造場は貯蔵にも甕を使用します。できあがった泡盛を2~3ヶ月甕に寝かせてからステンレスのタンクに移すことで、蒸留直後のツンとするようなアルコール臭を和らげ、新酒でも優しい味わいになるようにしているそうです。
私の人生を変えた『玉友 甕仕込』は、石川酒造場創業当時からの代表銘柄。甕仕込み製法で、手間隙をかけて作られた古酒で、沖縄県内で多くの賞を取っています。
私は断然!5年古酒の43度をロックでいただくのが好みですが、5年古酒でも25度、30度、40度、43度と度数が様々です。
最初は5年古酒30度をロックと水割りで楽しみ、そこから他の度数にもチャレンジ!ぜひあなた好みの一本を見つけてほしいと思います。
泡盛と出会ってから
常連のお店で石川酒造場の『玉友 甕仕込5年古酒30度』と劇的な出会いを果たした後、私はすっかり泡盛の飲み比べが好きになました。その結果、ワインのソムリエのように泡盛をお勧めすることができる「泡盛マイスター」という資格を取得。
その後、ご縁をいただき、泡盛専門バーで働いたり、泡盛専門の記事を書いたりするまでになりました。
泡盛は、糖質ゼロなうえ、ストレートやロック、お湯割りや水割りなど、その日の気分に合わせて飲み方を変えられるお酒です。そのうえ、カクテルベースにもなるなど、たくさんの可能性を秘めています。
そんな魅力的な「泡盛の世界」を、これから皆さまにご紹介できたらと思っています。
次回をお楽しみに!
ライター/久高葵
泡盛じょーぐーライター 酒どころ沖縄県那覇市首里の隣町で生まれ育つ。ひょんなことがきっかけで泡盛の奥深さに気づき、2016年春に泡盛マイスターの資格を取得。 その頃から「多くの人に泡盛の魅力を伝えたい」と、様々な媒体に泡盛にまつわるコラムや記事を寄稿、若者向けの泡盛イベントの開催にも企画段階から携わる。2018年8月には、編集長として携わったムック本『酒好きにすすめたい泡盛の香り』を出版。 現在は県外に住みつつ、引き続き泡盛の普及に密かな情熱を燃やしている。
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